島屋研究所

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My Opinion for Barrier Free Access

File.1 高野山へのアクセス




 高野山について 

高野山は弘法大師によって開山された場所である。
この町に訪れる観光客は年間113万8915人(2000年 和歌山県地域行政課調べ)で、うち、宿泊客が32万8674人(同年同行政課調べ)である。
高野山は2004年7月7日に世界遺産に登録された。世界遺産に登録されたことにより、この町を訪れる観光客は先程の数字を下回ることはないだろう。
となると、高野山へのアクセスが今まで以上に重要になるのは間違いなく、「誰もが訪れやすい観光地」、つまり、高野山全体のバリアフリー化が求められる。

しかし、現在高野山へは高速道路はなく、 標高およそ900mの位置にあるため、高野山に通じる国道は山越えを強いられる。他の観光地より比較的年齢層が高い人が自動車を運転して高野山へ行くのは楽な道のりではない。

自動車以外となると貸切の観光バスか公共交通機関となるのだが、前者の場合はとにかく、後者の場合、南海電車とバスで高野山に行くのが普通であろう。しかし、高野山へは険しい道のりがある。


 高野山への道のり 


高野山駅前のバス停に貼られていた貼り紙 南海電車の駅まではとにかく、一旦、電車に乗ってしまえば極楽橋駅までは問題ない。

しかし、高野山へはこの駅からケーブルカーとバスを乗り継がなければならない。
ケーブルカーはホームに階段があり、これを避けてケーブルカーに乗ることは不可能である。しかも、この階段が急であるため、車いす方だとケーブルカーに乗るのは事実上不可能である。

ケーブルカーで高野山駅に到着しても街の中心部や寺院に行くためにはバスに乗らなければならないが、高野山地域を運行している南海りんかんバスにはノンステップバスは走っていない。しかも、高野山駅前のバス停で写真のようなものが貼られていた。
書かれている内容はとにかく、文章自体もおおよそサービス業とは思えないようなきつい口調で車いすの方には路線バスに乗って欲しくないような印象すら受ける。

私は高野山へのバリアフリー化はまずケーブルカーとバスの乗降の問題をクリアすることだと考える。

 ケーブルカーのバリアフリー化 


極楽橋駅

極楽橋駅(ケーブル線) 南海電鉄高野線の終着駅である極楽橋駅は付近に民家はなく、ほぼ全ての乗客がケーブルに乗り換える。
また、この駅はケーブル線こそホームが階段状になっているが、乗り換えそのものは通路を通るだけで、特に段差はない。
したがって、平坦な通路にスロープをつければある程度上ることになるので、ケーブルカーの一番下の入口あたりならスロープだけで行けそうである。

降車ホーム側(写真右側のホーム)にスロープを設置すればいいと考えます。橙色の太実線のようにまず外側に水平な通路を作り迂回するようにスロープを作り、連絡通路に接続する。
反対に乗車ホーム側にスロープを設けないのはスロープの設置のためにトイレの移設が必要になるので余計な工費がかさむと考える。

また、この駅にエレベーターを設置しないのは、後述する高野山駅の方には設置しなければいけないと判断、こちらだけでもスロープで対応する方が安上がりである。

高野山駅

高野山駅 高野山駅は階段が急なので、極楽橋駅でエレベーターに乗って先頭車両(ケーブルカーにしては珍しい2両編成です)の前のドアにいてもまだ、急な階段を上ることになります。
ここでは写真左側の乗車ホームの奥(つまり極楽橋側)のドアから水平の通路を作り、ホームから離れたら簡易エレベーターを設置します。
できれば、普通のエレベーターの方がいいのですが、工費を抑えるのと駅を含めたあたり一面は国定公園なので設置スペースも取らないほうがいいでしょう。

ただ、エレベーターを降りてから改札までは通路を作らなければならないが、仕方がないことだろう。
車いすの方が利用できる乗降口は1ヶ所に限られるが、それでも全然違うと考える。これにケーブルカーのドアを幅を広げ、ケーブルカーとホームとの間に渡し板を用意すれば完璧でしょう。

 路線バスのバリアフリー化 


ノンステップバスの導入

金剛峯寺前の道路 他の観光地より年配の方が多い高野山の場合、ノンステップバスを導入し、乗降が容易なものにすべきである。

しかし、ただ単にノンステップバスを導入すると大変なことになる。
バス会社の貼り紙の通り、歩道が狭く乗降スペースがないと折角のノンステップバスも意味がない。

右側の写真は金剛峯寺前バス停であるが、まだ乗降スペースがあるほうだが、歩道は線でかかれたものでここにスロープを出すとなると乗降するのが大変である。
だから導入するノンステップバスもその地域にあったものにしなければならない。

クセニッツ社のバス

クセニッツ社のバス そこで私はクセニッツ社(架装メーカーで車はフォルクスワーゲンです)のノンステップバスならば問題を解決できると思います。
写真はクセニッツ社のノンステップバスの前後の写真だが、車輪が付いているのかと思うほど車体を下げることができ、車いすの方の乗降もスムーズにできます。

車いすの方の乗降は後ろの扉なので、歩道の広さに関係なく、バスに乗降出来ます。
ここで気になるのは雪の問題です。

2000年の降水量(単位はmm)
高野山金沢
1月62151.5
2月58184.0
3月148198.5
4月115142.5
5月12350.5
6月421186.0
7月105105.5
8月1795.5
9月247414.0
10月188160.0
11月149290.5
12月55237.5
右の表は高野山と金沢の2000年の降水量(和歌山地方気象台・金沢地方気象台調べ)だが、冬季(12〜2月)の降水量を雪と考えると高野山より金沢の方が雪が降っている。
実はクセニッツ社のノンステップバスは金沢では走っており、雪を理由にしたノンステップバス導入の障害はないはずである。

しかも、高野山内の道路には北国には当たり前にある除雪のためのスプリンクラーが埋設されていない。
先程の金剛峯寺前バス停は真冬に撮った写真で雪はあるものの乗降が出来ないような雪ではない。

以上のことから物理的にノンステップバスの導入は可能である。

運行ルートの問題

物理的に問題を解決できてもまだ課題は残る。
現在、高野山内を運行しているバスよりバスの車体が小さいのである。

折角、導入されても輸送力が低下して乗客が乗れなくなるのは問題で、増車と言う形で配備するのが望ましい。

高野山内バスルートマップ 右側にあるルートマップは高野山地区のバスのルートマップである。
観光客が主に利用するバス路線は次の3つである。

  1. 高野山駅前−千手院橋−奥の院前
  2. 高野山駅前−千手院橋−大門
  3. 大門−千手院橋−奥の院前
この中でも特にバスの本数、利用客が多いのは1 高野山駅前−千手院橋−奥の院前でこの路線に先程のノンステップバスを置き換えると客の多い夏場だと積み残しが出る恐れがあるので、この路線の補完という形で高野山駅前−大門−千手院橋−奥の院前という新規のバス路線を提案したい。
高野山駅前から大門までダイレクトに行くバス路線は現在ないが、道路そのものは存在し、距離は高野山駅前−千手院橋と同じ3kmである。
(ちなみに千手院橋−奥の院前は1.9km、大門−千手院橋は1.1kmです)
奥の院から金剛峯寺や金堂・根本大塔への最寄である金堂前に行く場合、バスの本数も少ないので千手院橋から歩くことになる場合が多いため提案ルートは有効だと考える。
他に考えられるメリットは次の通りである。
  1. 奥の院へ早く行きたい方は普通のバスに乗り、足の悪い方をノンステップバスの路線の方に誘導すれば満員による乗車拒否も少ない。
  2. 金堂にダイレクトに行かれる方はこのルートが一番早い。
  3. 駅と高野山内の主要な観光スポットを結んでいるので1本のバス路線だけ覚えておけばよいので分かりやすい。
  4. 片道6kmのバス路線なのでバスの運行が往復1時間かかったとしても1台のバスで1時間に1本確保でき、分かりやすいダイヤが組める。


このバス車両の値段は高いのが難点であるが、それは地元の自治体である高野町が福祉のまちづくり整備計画の中に「観光拠点を巡る低床バスの導入等の検討」とすでに打ち出しているのでバス購入の補助か運営の委託と言う形でバス路線の導入は財政上も可能である。

 高野山内の観光スポット 


奥の院 弘法大師御廟

奥の院弘法大師御廟 高野山の観光スポットといえばまず奥の院 弘法大師御廟が挙げられるでしょう。
奥の院バス停から1.3km、一の橋バス停から1.9kmありますが、路線バスであっても観光バスであっても乗用車に乗っても、これらのバス停もしくは近くの駐車場から歩いていかなければならない。

神聖な場所なのでこれ以上望んではいけないのかもしれないけれど、弘法大師御廟の近くまで車いすごと乗車できる電気自動車を運行できればと思っている。
奥の院前バス停から御廟までの道のりは距離があるだけでスロープでつながっている。

御廟に近くに階段があるのだが、写真のように車いすでのアクセスが整っていてスロープがある。

金剛峯寺

金剛峯寺 こちらは街のメインストリートから入った場合の金剛峯寺の入口です。ここの建物の中を見るのは数段の段差があるのですが、室内専用の車いすも用意され、また、建物内はスロープがついていて、建物内のほとんどの場所への移動はしやすいです。

金剛峯寺 こちらはメインストリートではなく、1本横道から入った場合の金剛峯寺の入口です。先程の道も緩やかなんですが、スロープ状になっているので入りやすいです。

壇上伽藍

金堂 街のメインストリートから金堂に入るとこんな感じです。また、階段の隣に車道(業務用だと思われるので交通量はない)があるのでそこを通ると問題は無いのですが、このお堂は見ての通り階段しかない。
建物は昭和7年に再建されたものなので簡易リフトを取り付けられそうですが…

根本大塔 金堂の隣にある建物は根本大塔といい、この塔を見て高野山をイメージする方も多いと思います。現在の大塔は昭和12年に完成されたもので、金堂以上に簡易リフトを取り付けやすい。
リフトを取り付けると景観を損ねるという意見もあると思うが、裏側からならさほど気にならないと思われるし、全ての人におまいりができる環境を整えるためなら弘法大師も納得するだろう。

 宿坊のバリアフリー化 


和歌山県内に宿坊は55ヶ所あり、那智勝浦町と本宮町に1ヶ所ずつあるほかは全て高野町に存在する。(2001年 和歌山県観光振興課「観光客胴体調査報告書」より)
同報告書によると高野町には53件の宿坊、5件の旅館、国民宿舎とユースホステルが各1件あり、高野山の宿泊施設の中心は宿坊である。
一部の宿坊にはバリアフリー化された部屋もあるが、まだまだ少数派で全室和室のみのところも珍しくない。それが宿坊の良さであるかもしれないが、元気な人だけが観光する時代は終わったのだから、年配の方が他の観光地より多い高野山は他の観光地よりバリアフリー化を進める必要がある。それは高野山の主要宿泊施設である宿坊も例外ではない。

2001年の水洗化人口割合(水洗化人口÷総人口)
順位市町村水洗化割合(%)
1位高野町82.2
2位橋本市79.1
3位白浜町70.0
4位田辺市69.7
5位太地町69.6
6位和歌山市68.6
7位南部町67.4
8位新宮市67.1
9位美浜町66.5
10位川辺町65.9
県平均 59.1
右の表は2001年度和歌山県環境生活総務課「環境白書」の市町村ごとの水洗化人口割合(抜粋)である。

高野町の水洗化人口割合は県内髄一で山の中という立地条件での数字なので驚異的である。

下水道が整備されていないとトイレを作るのも大変なので(当然、車いすトイレはもっと条件が厳しくなる。)、町全体のバリアフリー化の準備は出来上がったと判断してもいい。

全てを洋室にというわけではなく、敷居の段差を解消するとか、玄関を上がりやすくすると言った宿坊ならではのバリアフリー化は可能だと考える。

 最後に 


既に公衆トイレに車いすトイレが設置されているので、高野町内で取り組めば町全体がバリアフリー化ができる。
そしてそのようになって欲しいとそう思っています。

2005.1.2 初公開

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